アンケートを設計するときに最初にぶつかる問いは「何人に聞けばよいか」です。少なすぎると結果の誤差が大きくて役に立たず、多すぎると費用と時間の無駄になります。比率を推定するアンケートの標本サイズは、望む誤差範囲と信頼水準さえ決めれば、簡単な式で求められます。
基本の式
母比率pを誤差範囲E以内で推定するのに必要な標本サイズは、次のとおりです。
n = z² × p(1−p) / E²
各記号の意味は次のとおりです。
z:信頼水準に対応する標準正規分布の臨界値(90%は約1.645、95%は約1.960、99%は約2.576)p:予想される回答の比率E:許容する誤差範囲(小数で表記、±3ポイントなら0.03)
この式は、比率の信頼区間p̂ ± z × √(p̂(1−p̂)/n)の誤差範囲の部分をEとおき、nについて解いたものです。計算結果は必ず切り上げます。四捨五入で切り捨てると、望む誤差範囲を満たせません。
p = 0.5を使う理由
調査の前には実際の比率はわかりませんが、式にはpが入っています。このとき通常はp = 0.5を使います。p(1−p)はpが0.5のときに最大値0.25をとるからです。
| p | p(1−p) |
|---|---|
| 0.1 または 0.9 | 0.09 |
| 0.2 または 0.8 | 0.16 |
| 0.3 または 0.7 | 0.21 |
| 0.5 | 0.25 |
つまり、p=0.5で計算した標本サイズは、実際の比率が何であっても誤差範囲を満たす最も保守的な値です。1つのアンケートで複数の設問を尋ねる場合でも、すべての設問に通用するサイズになります。過去の調査から比率が20%前後だという信頼できる情報があれば、p=0.2で計算して標本を減らせます。95%、±5ポイントでは、p=0.5なら385人ですが、p=0.2なら246人です。
例題:信頼水準95%、誤差範囲±5ポイント
z = 1.96、p = 0.5、E = 0.05n = 1.96² × 0.25 / 0.05² = 3.8415 × 0.25 / 0.0025 ≈ 384.15- 切り上げ:385人
選挙の世論調査でよく見る「信頼水準95%で±3.1ポイント」といった文言は、標本が約1,000人のときの値です。
信頼水準・誤差範囲別の必要標本サイズ
母集団が十分に大きく、p=0.5のときの値です(すべて切り上げ)。
| 信頼水準 | ±1ポイント | ±3ポイント | ±5ポイント |
|---|---|---|---|
| 90% | 6,764 | 752 | 271 |
| 95% | 9,604 | 1,068 | 385 |
| 99% | 16,588 | 1,844 | 664 |
表から2つの傾向が読み取れます。
- 誤差範囲を半分にするには、標本が約4倍必要です。nがE²に反比例するためです。±5ポイントから±1ポイントへ5倍精密にするには、25倍が必要です。
- 信頼水準を95%から99%に上げると、約1.73倍が必要です。
(2.576/1.960)² ≈ 1.73です。
逆に:標本サイズから誤差範囲を求める
標本サイズがすでに決まっているなら、式を逆に使って誤差範囲を求めます。
E = z × √(p(1−p) / n)
95%、p=0.5の基準で、回答200人なら1.96 × √(0.25/200) ≈ 0.0693(約±6.9ポイント)、500人なら約±4.4ポイント、2,000人なら約±2.2ポイントです。回答数が決まっている調査結果を読むときにこの値を知っておくと、2つの選択肢の差が誤差範囲内にあるかどうかを見当づけられます。
有限母集団修正
上の式は母集団が非常に大きいことを仮定しています。母集団Nが小さく、標本が母集団のかなりの部分を占める場合は、必要な標本が少なくなります。これを有限母集団修正(FPC)といいます。
n = n₀ / (1 + (n₀ − 1) / N)
ここでn₀は前の式で求めた値(切り上げ前)です。教科書によっては分母を1 + n₀/Nと書くこともありますが、Nが数百人以上なら結果の差はほとんどありません。
社員2,000人の会社で95%、±5ポイントの調査を行うなら、次のようになります。
n₀ ≈ 384.15n = 384.15 / (1 + 383.15 / 2000) = 384.15 / 1.1916 ≈ 322.39- 切り上げ:323人
母集団の大きさによる変化を見ると、修正の効果がわかります(95%、±5ポイント)。
| 母集団 N | 必要標本 |
|---|---|
| 500 | 218 |
| 2,000 | 323 |
| 10,000 | 370 |
| 100,000 | 383 |
| 非常に大きい | 385 |
母集団が数万人を超えると、必要な標本は母集団の大きさとほぼ無関係になります。人口5千万人の国と人口50万人の都市で、同じ精度の調査に必要な標本がほぼ同じになるのはこのためです。抽出率(n/N)が5%を超えるときに修正を適用するのが、一般的な目安です。
回答率の考慮
式が教えてくれるのは最終的な回答数です。配布したり接触したりすべき人数は、予想回答率で割って求めます。
配布数 = 必要回答数 / 予想回答率
必要回答数385人、予想回答率30%なら、385 / 0.30 ≈ 1,283.3 → 1,284人に配布する必要があります。先ほどの会社の例(323人)なら、回答率30%で1,077人、つまり全社員の半数以上に配布しなければならないという計算になります。
ただし、回答率が低いほど回答しなかった人と回答した人が異なる可能性(無回答バイアス)が大きくなります。標本を増やしても無作為な誤差が減るだけで、このバイアスは減りません。
下位集団の分析を計画しているなら
全体の結果だけでなく、年代別や地域別の結果も報告する予定であれば、それぞれの下位集団の中で必要な標本を別に確保する必要があります。全体385人を5つの年代に分けると1集団あたり約77人で、その中での誤差範囲は95%基準で約±11ポイントに広がります。下位集団ごとに±5ポイントを望むなら、集団ごとに385人近くが必要です。
式の前提
- 単純無作為抽出を仮定しています。層化抽出や集落抽出を使う場合は、デザイン効果(design effect)を掛けて補正する必要があります。
- 比率の推定用です。平均の推定や2群を比較する検定には、別の式(標準偏差、効果量、検出力を含む)を使います。
- 便宜的な標本(オンラインの公開リンクなど)には、誤差範囲という概念そのものが厳密には当てはまりません。
このサイトの標本サイズ計算機に信頼水準、誤差範囲、母集団の大きさ、回答率を入れると、必要な回答数と配布数をまとめて計算できます。
まとめ
- 必要標本は
n = z² × p(1−p) / E²で、結果は必ず切り上げます。 - pがわからなければ、
p(1−p)が最大になる0.5を使って保守的に計算します。 - 95%で、±5ポイントには385人、±3ポイントには1,068人、±1ポイントには9,604人が必要です。
- 母集団が小さければ
n₀ / (1 + (n₀−1)/N)で修正します。N=2,000なら323人です。 - 配布数は必要回答数を回答率で割って求め、無回答バイアスは標本を増やしても減らないことを覚えておきます。